ある事業所で、運転中の「ヒヤリ・ハット体験」を募集したところ、沢山の応募があり、一人で何例も出している運転者がいました。休憩時間にその運転者と管理者が話しています。
管理者「この間は、たくさんのヒヤリ・ハット体験を出してくれていたよな。運転中にヒヤッとすることが多いの?」
運転者「そうなんです。私は結構あるんですよ」
管理者「そうなの。他の人は1~2件くらいなのに、君は5件出していたよな」
運転者「そんなに多かったですか……」
管理者「いや、多いのがいけないと言ってるんじゃないんだよ。ヒヤリ・ハット体験が多いと、それが将来的に事故につながらないか心配しているんだよ」
運転者「どういうことですか? 私はこれまで一回も事故を起こしたことがありませんよ。知っていますよね」
管理者「わかっているよ。ところで、君はハインリッヒの法則というものを知っているかね」
運転者「“ハインリッヒの法則”ですか。聞いたことないですね」
管理者「“1:29:300の法則”ということもある」
運転者「“1:29:300”というのは何の数字ですか?」
管理者「これは、アメリカの保険会社の技術者であったハインリッヒが、莫大な数の労働災害について調査分析して発見した数字なんだよ」
運転者「はあ、そうですか」
管理者「それによると、1件の重傷事故の背後には29件の軽傷事故が起こっており、危うく事故を免れたヒヤリ・ハット事例が300件も起きているというんだよ」
運転者「はあ……」
管理者「だから、事故を起こしていないからといって、ヒヤリ・ハット体験が多いということは、いつかは事故につながるんじゃないかと心配しているんだよ」
運転者「うーん」
管理者「ところで、君はヒヤリ・ハットしたときに、なぜそんなことになったのか自分の運転を振り返っている?」
運転者「いいえ。事故にならなくてラッキーとしか考えてないですね」
管理者「そこが問題なんだよ。“ヒヤリ・ハット体験”は活かしてこそ生きるものなんだよ」
運転者「どういうことですか?」
管理者「“ヒヤリ・ハット体験”をしても、君のように『危なかった。助かった』とそのままにしていると、いつかは29件の軽傷事故、1件の重傷事故に結びついていくということだよ」
運転者「はあ…」
管理者「“ヒヤリ・ハット体験”をしたら、なぜそのようなことになったのか原因を考えて、次の運転に活かすことが大切なんだ」
運転者「これまでそんなこと、あまり意識していませんでした」
管理者「今回、全員に“ヒヤリ・ハット体験”を募集したのも、他人の体験も活かして欲しいからなんだよ。自分の体験はもちろんだが、他人の体験も参考にして、安全運転に活かしてくれよ」
運転者「はい、わかりました」
“ヒヤリ・ハット体験”をしたら、「事故にならなくてよかった」と安心するのではなく、なぜ”ヒヤリ・ハット”することになったのか、その原因を考え、二度とそういう運転をしないようにしてくださいね。