同乗者を乗せているときの落とし穴

ある事業所で、プライベートの運転で事故を起こした社員が、管理者の元に事故の報告をしています。


管理者 「どんな状況で事故を起こしたの?」


運転者「雨が降っていたのですが、カーブを曲がり切れずにスリップして、対向車線にはみ出してしまい対向車と接触してしまいました…グッスンシクシク」

 

管理者 「もういい大人なんだから、泣かないでいいよ。幸い、相手にも大きなケガがなくてよかったけど、スピードを出していたの?」

 

運転者「ええ。少し出ていたように思います」

 

管理者 「雨が降って路面が濡れていたんだろう。しかもカーブなんだし、スピードを出したら危険なことは分かっているはずだろう」

 

運転者「そうなんですけど、つい……」

 

管理者 「つい?おかしいな。そうか、誰か同乗者がいたんだな…」

 

運転者「なんでわかるんですか?はい、高校時代の親友を助手席に乗せていました」

 

管理者 「確か、君は免許を取って1年くらいで、つい最近新車を買ったところだったよな」

 

運転者「そうです。それで友だちを誘ってドライブをしていたんです」

 

管理者 「友だちは運転免許を持っているの?」

 

運転者「ちょうど教習所に通っていて、路上教習に入ったところだと言っていました」

 

管理者 「そうか、なぜ君がスピードを出したか分かってきたような気がするな」

 

運転者「どういうことですか?」

 

管理者 「君の心理のなかに、友だちに運転が上手なところを見せようという心理が働いていたんじゃないのか」

 

運転者「そ、そんなことはありませんけど…」

 

管理者 「いや、正直なところを話して欲しいんだよ」

 

運転者「うーん、ないと言えばウソになりますかね」

 

管理者 「運転に限らず、人間は誰でも無意識に自分の能力や特性が優れている、と強調してしまうことがあるんだよ」

 

運転者「免許を取って1年が過ぎて運転にも慣れた頃だし、友だちに対して何かそういう得意な気持ちを持っていたかも知れません」

 

管理者 「若い運転者が同世代の人を前席に乗せていた時は、その他の年代の人を乗せているときよりもスピードが5~10キロ高いという報告もあるんだよ」

 

運転者「それだけ、いい格好をしたいということですかね」

 

管理者 「若者同士ということで気分が高まり、“格好いいところを見せたい”という意識が働きやすいということだろう」

 

運転者「そうですね」

 

管理者 「営業などでは、自分の優れているところをアピールするのは有効な手段だと思うけれども、運転には必要ないと思うよ」

 

運転者「ええ…わたしがまだまだ未熟でした」

 

管理者 「運転するときには常に謙虚な姿勢で、平常心を保つことが安全につながることを忘れないでくれよ」

 

運転者「はい、わかりました」

 同乗者がいるとき、運転が上手なところを見せようと無理をしていないか、冷静に考えてみましょう。少しでもそういう意識があれば、すぐにスピードを落とすなど、平常心を取り戻す運転をしてください。


>> 管理者のいい話一覧へ