ある事業所で長年無事故・無違反を続けていた運転者が、事故を起こして管理者に報告しています。
管理者「君はこれまで事故も違反もしたことがないのに、どうしたの?」
運転者「左側の歩道をお年寄りの自転車が走っていたのですが、急に車道に出てきたので、接触したんです」
管理者「歩道にはガードレールが設置されていたの?」
運転者「いいえ、設置されていませんでした」
管理者「だったら、ある程度自転車が出てくることは予測できたんじゃないの?」
運転者「予測はしていたんですけど、ついそのまま行くと思い込んでしまって。それにしても今回の事故で次の免許更新のときにはゴールド免許じゃなくなるし、本当にショックです」
管理者「君はゴールド免許のことばかり気にしているが、『100マイナス1=ゼロ』という数式を知っているか?」
運転者「いえ、知らないです。でも、これは数式としておかしいのではないですか?」
管理者「まあ、そうだな」
運転者「そうでしょう。100から1を引くと99になりますよね」
管理者「確かに算数の考え方では99になるよ。でも、交通事故に関していえば、たった1件の事故でもこの数式が成り立つことがあるということだよ」
運転者「どういうことですか?」
管理者「君のようにこれまで安全な運転をしてきても、たった1件でも事故を起こすことによって、これまで築いてきた信頼がゼロになることがあるということだ!」
運転者「えっ……」
管理者「今回の事故で、君の運転免許証がゴールド免許でなくなることも、その一つだよな」
運転者「そうですね」
管理者「今回は軽い接触事故なので、免許証がゴールドでなくなるくらいのマイナスで済んでいるが、もし死亡事故になっていたら、どうなると思う」
運転者「死亡事故ですか?想像つきませんね」
管理者「死亡事故なら、君が免許停止や取消しになることはもちろんだが、場合によっては地域社会や取引先に悪い印象を与えることがあり、会社の売り上げに影響することもある」
運転者「……」
管理者「そうなると、たった1件の事故でもいろいろなマイナス要素がどんどん積み重なって大きくなっていくんだよ」
運転者「それで、100から1を引いても99にならないというわけですね」
管理者「そう。死亡事故でなくても、飲酒運転など重大な違反でも顧客から取引を中止されることもあり、大きなマイナスになる」
運転者「そう考えると、違反でも怖いですね」
管理者「そうだな。今回は軽い事故だったのでマイナス要素が少ないが、たった1件の事故や違反が取り返しのつかない事態を招くという意識で運転してくれよ」
運転者「はい、わかりました」
交通事故や違反は件数だけで数えてはいけません。たった1件でも、それまで築いてきたものが一気にゼロになることもあります。車に乗るときは、常にそういうリスクがあることを意識してください。