ある事業所で、管理者が営業担当者の車に同乗して得意先に出かけました。そのとき前車との車間距離をあまり取っていないと感じ、営業担当者に話を聞いています。
管理者「君は、いつもこれくらいの車間距離しか取っていないのか？」
運転者「そうですよ」
管理者「少し、短すぎると思わないか？」
運転者「大丈夫ですよ」
管理者「なぜ、大丈夫と思うのかい」
運転者「前の車がブレーキを踏んだら、私もブレーキを踏みますから、車間距離が短くても追突することはありませんよ」
管理者「車間距離を取っていないのはそういう理由なのか？」
運転者「はい」
管理者「どうやら君は、前車のブレーキランプがついたら、自分もほぼ同時にブレーキを踏めると思っているようだな」
運転者「ええ、結構、反射神経には自信があるんです」
管理者「そういう考え方が危険なんだ」
運転者「……」
管理者「どんなに早くブレーキを踏んだとしても、ブレーキが効き始めるまで少し時間がかかるんだよ。これを空走時間と呼んでいる」
運転者「そんなわずかな時間、問題になりませんよ」
管理者「では聞くけど、その空走時間はどれくらいだと思う」
運転者「うーん……、０．１秒くらいでしょう」
管理者「いや、一般的に０．７秒から１秒かかると言われている」
運転者「本当ですか？」
管理者「そうだよ。君は反射神経に自信があるといったので、仮に早い方の０．７秒で考えてみよう」
運転者「はい」
管理者「時速４０キロで走行していたとしよう。このときの秒速は１１．１ｍだから０．７秒をかけると７．８ｍも進んでいることになる」
運転者「エッ、これはブレーキが効き始めるまでの距離ですよね」
管理者「そうだよ。危険を感じてブレーキを踏んだとしてもブレーキが効くまで約８ｍほど進んでいるんだよ」
運転者「そうですか……」
管理者「ブレーキが効くまでにこれだけの距離が進んでいるわけだから、前車が急ブレーキを踏んだりしたら、追突するリスクが高くなるということだ」
運転者「そういうことですね」
管理者「空走距離がこれだけ長いことがわかれば、自分の車間距離がいかに短かったか理解できるだろう」
運転者「はい。これからはもっと空走距離を意識して車間距離を取って運転するようにします」
