ある事業所の社員が、夜間走行しているときに、横断歩道がない場所を渡ってきた歩行者と衝突する事故を起こしました。翌日出勤した社員が管理者に事故の報告をしています。

運転者「すみません。昨晩横断してきた高齢者と事故を起こしてしまいました」

管理者「横断歩道ではない所を横断してきた、と聞いたけど?」

運転者「そうなんです。横断歩道がない場所だったんで、歩行者に気づくのが遅れてしまって……」

管理者「夜間、横断歩行者と事故を起こす事例をみると、横断歩道がない場所を渡ってくるケースが結構多いんだ」

運転者「そうですね。横断歩道がない場所だったので、少し油断していました」

管理者「そういう場所でも、横断してくる人はいるので、油断しないことだな」

運転者「はい、今後気をつけます」

管理者「ところで、車のヘッドライトは上向きにしてた?」

運転者「いえ、下向きでした」

管理者「横断者がいたのだから、前方に車はいないはずだよな。対向車がいたのか?」

運転者「いえ、いませんでした」

管理者「前車も対向車もいないのに、どうしてヘッドライトを上向きにしなかったの?」

運転者「うーん、上向きにすると、対向車が来ると下向きにしなければならないじゃないですか」

管理者「つまり、面倒くさくて下向きのまま走ってたというわけだな」

運転者「そうですけど……」

管理者「君は、ヘッドライトの上向きと下向きでどれだけ照射距離が違うかわかる?」

運転者「詳しくは知らないです」

管理者「上向きでは、約100m先まで照射するが、下向きでは約40m先までしか照射しない」

運転者「えっ、そんなに差があるんですか」

管理者「たとえば、時速60キロで走行している車の停止距離は約44m。だから下向きライトの車が40m先に危険物を見つけて、慌ててブレーキを踏んでも間に合わないことになる」

運転者「そうですね」

管理者「同じ状況で、ライトを上向きにして走行していたらどうなっているだろう」

運転者「上向きライトだと100m先まで照射しますから、もっと早く危険物を発見できますよね」

管理者「そしたら、早くから横断歩行者を見つけることができて、ブレーキを踏んだら、事故は避けられるよな」

運転者「ええ」

管理者「これからは、前車も対向車もいないときには、面倒がらずにヘッドライトを上向きに切り替えて走行してくれよ」

運転者「はい、わかりました」

夜間、歩行者などとの事故は、ほとんど下向きライトのままで走行して発見が遅れることが原因となっています。先行車や対向車がいないときは、積極的に上向きライトを使用してくださいね。